最高裁判所第三小法廷 昭和47年(オ)908号 判決 1973年4月24日
上告人
根本フミ
右訴訟代理人
今野佐内
被上告人
中谷恒男
外一名
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人今野佐内の上告理由(一)について。
所論は、参加人(被上告人)の被告(上告人)に対する訴の訴訟物は、原告(被上告人)の被告に対する訴の訴訟物と同一であつて重複起訴になり不適法である、というのである。
所論に関する本件の訴訟関係は、つぎのとおりである。すなわち、原告は参加人からその所有の第一審判決添付別紙目録(一)の土地(以下「本件土地」という。)を含む土地を賃借しているとして、その一部である本件土地につき賃貸人たる参加人に代位しその所有権にもとづき本件土地上に同目録(二)の建物部分(以下「本件建物」という。)を所有して本件土地を占有している被告に対し、本件建物収去本件土地明渡を求めたのが本訴であるところ、参加人は、原告が本件土地を被告に無断転貸したから本件土地についての賃貸借契約を解除したとして、原告に対し原告が本件土地について賃借権を有しないことの確認を求めるとともに、被告に対し所有権にもとづき本件建物収去本件土地明渡を求めて民訴法七一条により本訴に参加したものである。
思うに、債権者が民法四二三条一項の規定により代位権を行使して第三債務者に対し訴を提起した場合であつても、債務者が民訴法七一条により右代位訴訟に参加し第三債務者に対し右代位訴訟と訴訟物を同じくする訴を提起することは、民訴法二三一条の重複起訴禁止にふれるものではないと解するのが相当である。けだし、この場合は、同一訴訟物を目的とする訴訟の係属にかかわらず債務者の利益擁護のため訴を提起する特別の必要を認めることができるのであり、また、債務者の提起した訴と右代位訴訟とは併合審理が強制され、訴訟の目的は合一に確定されるのであるから、重複起訴禁止の理由である審判の重複による不経済、既判力抵触の可能性および被告の応訴の煩という弊害がないからである。したがつて、債務者の右訴は、債権者の代位訴訟が係属しているというだけでただちに不適法として排斥されるべきものと解すべきではない。もつとも、債権者が適法に代位権行使に着手した場合において、債務者に対しその事実を通知するかまたは債務者がこれを了知したときは、債務者は代位の目的となつた権利につき債権者の代位権行使を妨げるような処分をする権能を失い、したがつて、右処分行為と目される訴を提起することができなくなる(大審院昭和一三年(オ)第一九〇一号同一四年五月一六日判決・民集一八巻九号五五七頁参照)のであつて、この理は、債務者の訴提起が前記参加による場合であつても異なるものではない。したがつて、審理の結果債権者の代位権行使が適法であること、すなわち、債権者が代位の目的となつた権利につき訴訟追行権を有していることが判明したときは、債務者は右権利につき訴訟追行権を有せず、当事者適格を欠くものとして、その訴は不適法といわざるをえない反面、債権者が右訴訟追行権を有しないことが判明したときは、債務者はその訴訟追行権を失つていないものとして、その訴は適法ということができる。
本件についてみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が適法に確定した事実関係によれば、原告の代位原因たる本件土地の賃借権は、その発生原因である賃貸借契約が原告において被告に対してした無断転貸を理由として参加人により解除されたため消滅したものということができるから、原告の代位訴訟はその代位原因を欠くものとして却下を免れず、したがつて、参加人が本訴に参加し被告に対して所有権にもとづいて本件建物収去本件土地明渡を求めた訴は適法というべきである。
右と結論を同じくする原判決は相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同(二)について。
所論は、参加人の被告に対する請求は権利の濫用である、というのである。
しかし、原判決が適法に確定した事実関係によれば、参加人の右請求が権利の濫用に当らないとした原判決の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。引用の判例は本件に適切でなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(坂本吉勝 関根小郷 天野武一 江里口清雄)